隣の家との境界のくいを引き抜く 「私有地に…」通報 52歳会社員の女を容疑で逮捕
令和4年5月18日
岐阜県警大垣署は18日、境界損壊の疑いで大垣市の会社員の女(52)を逮捕した。
逮捕容疑は昨年11月21日、隣の家との境界にある木製のくいを引き抜き、置かれていたプランターやコンクリートブロックを投げ捨てて壊し、土地の境界を分からなくした疑い。
署によると、隣の家に住む男性が「私有地に入ってきた人ともめている」などと110番し、署が捜査していた。認否は明らかにしていない。
(岐阜新聞社)
上記記事が公開され、境界標の重要さ、取り扱いには気を付けなければならないことが再認識されました。
これを機に、境界標を勝手に抜いたり、動かしたり、壊したり、勝手に境界標を入れることがなぜダメなのか。
確認してみましょう。
まず、
境界損壊罪とは、刑法による刑事罰であり「境界標を損壊し、移動し、若しくは除去し、又はその他の方法により、土地の境界を認識することができないようにした者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と規定されています(刑法第262条の2)
境界標に手を付けて、境界線が分からなくなったら犯罪行為であるということです。
なお、境界標を少し傷つけてしまった場合は、境界の位置を認識できるため境界損壊罪にはなりません。
(器物破損にはなりえます)
また、境界の木を切ったとしても、木の根元は抜いておらず、境界位置に変更は生じていないため、
これも境界損壊罪にならないという考え方になります。
(参考判例:境界標を損壊しても、いまだ境界が不明にならない場合には、境界毀損罪は成立しないものと解すべきである。(最(2小)判昭和43年6月28日刑集22巻6号569頁)
では、
境界標とは何か?
境界標とは、分かりやすいもので言うと、
コンクリート杭、金属プレート、金属鋲が代表的な境界標です。
基本的に境界標は容易に動いてしまうと問題になりますので、設置個所に応じて、
容易に動かないような永続性のある境界標が設置されます。
【コンクリート杭】
【横浜市の金属プレート】
【金属鋲】
その他、刻み、柵、境界木も境界標となりえます。
地域慣習や関係人の認識等も鑑みて、さまざまなものが境界標となりえます。
何が境界標で何が境界標ではないのか訳が分からないと感じるかもしれませんが、
お住まいの方々が「あそこが境界の目印」だと認識し、保存を行ってきたものが境界標という事になります。
もちろん、一般的に言われるコンクリート杭やプレートは境界標識ですので勝手に動かしたり抜いたりしてはいけません。
そこにお住まいの方が、
- 「あの大きな石につけているバツ印が境界だ」
- 「あの柵の角が境界線だ」
- 「あの樹木が境界だ」
- 「あの木杭が境界だ」
というように、境界の目印として認識しているものは「境界」と考えられ、
境界の目印として設置され認識されていたものが、破壊されたり、取り外されたり、伐根されたりすると、
境界線が分からなくなったことになるので境界損壊をしたことになるのです。
【石に十字で「刻み」があります。これも境界であり、石を動かしてはいけません】
記事を読むと、何かしらかの不満があり境界(木製のくい)を引き抜いてしまっています。
木製の簡易的な境界であっても、それを目印にしていた方からすると、
境界線が分からなくなってしまい、今回のような騒ぎになってしまうのです。
では、境界を勝手に入れられた場合は、黙認しなければいけないのか?
もちろん隣地の方が勝手に境界標を入れて、その境界標の位置が間違えていると思っていても、
勝手に境界標を抜くことは許されません。
※なお、勝手に境界標を設置する行為は所有権の妨害であり妨害排除請求の対象になりえます。
勝手に境界標が入っているとしても、それが境界標と思っている方は存在し、
それは法的に否定されない限り保護されるべきであるからです。
境界位置に疑義がある場合や、境界標を設置する方法は、
- 土地家屋調査士に境界確定測量の依頼
(関係人と境界確認を実施し、境界確定・境界設置の実施) - 筆界確定訴訟、境界設置請求
等により正しい境界線を確認し、境界標を設置する手続きが必要です。
境界標が設置され、そのまま黙認してしまうと、次は時効取得等の恐れが生じますので、
境界について不安な事や、問題を抱えている場合は、
早めに相談いただければと思います。
土地家屋調査士法人トチプラス
池富嗣勇
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